年収の壁
2024/11/11
ここ最近、連日のように「年収の壁」が、ニュース・SNS等で話題にあがっております。
「年収の壁」とは、次の通りです(「100万の壁」は、横浜市の場合)。
その発端は、つい先日行われた衆議院議員選挙(令和6年10月27日)の結果にあります。
この衆院選で、与党である自民・公明、両党を合わせても過半数割れとなりました。
想定の範囲ではありますが、実に15年ぶりの出来事です。
自民党は、公明党以外にも連立する政党を増やし、過半数を確保する必要に迫られております。
なぜなら、過半数を確保しないと、法案や予算案が通しづらいだけでなく、内閣不信任案が通りやすくなり、下手をすれば政権交代にもなりかねないからです。
そのため、この少数与党のキャスティングボードは、議席数7から28と4倍へ増やした国民民主党に握られたというわけです。
その国民民主党は「基礎控除等の合計を103万円から178万円に引き上げる」と公約に掲げております。よって「年収の壁」が盛んに話題となっているのです。
なお、非課税枠178万円になったとしても、先進各国とようやく同水準です。
これに対し、政府は、国民民主党が求める非課税枠を103万円から178万円に引き上げた場合、国・地方合計で、年間7兆6000億円の減収になる見込みと試算しております。
ちなみに、政府が試算したこの減収額は、消費税3%の減税に相当します。
しかし、この政府の見解には、大いに疑問を感じております。
もし非課税枠を引き上げれば、これまで扶養の範囲に抑えて働いていたパートの労働時間は確実に増えるでしょう。
その結果、可処分所得は増えます。
そして、自由に使えるお金(可処分所得)が増えた分、消費も増えることでしょう。
消費が増えれば、経済は活性化し、国の税収(消費税)も増えます。
売上高が増加した企業は利益が増え、国の税収(法人税)も増えます。
つまり、非課税枠を引き上げた場合、政府の見解とは逆に、国の税収が増える可能性が極めて高いと思われます。
なお、昨今、パートの労働時間は、年々、減少傾向にあると思われます。
その理由は、最低賃金が年々上昇しているため、労働時間を抑えないと「年収の壁」に到達してしまうからです。
下記の図は、神奈川県の最低賃金の推移です。
もちろん賃金が上がるのは良いことではあります。
しかし、政府がその他の周辺対策を打たないため、パートの労働時間は減り、中小企業の人手不足をより深刻化させているのです。
この問題は、最低賃金が上がれば上がるほど、益々、悪化していきます。
【解説】※ 1日6時間のパート勤務で「103万円の壁」を意識して働いていると仮定。
(最低賃金)令和1年~令和6年 → 151円上昇
(月間の労働日数)令和1年/14.15日 → 令和6年/12.31日、1.84日減少
(年間の労働日数)22.07日減少
(結論)約2ヶ月、パート社員が不在となり、労働力が不足する。
この現状に加え、働き方改革による「残業時間の上限規制」もまた、中小企業の人手不足に拍車をかけております。
その最中、岸田前政権は、2024年度から5年間、特定技能の外国人労働者を82万人受け入れることを閣議決定しました。
これら一連の流れを見てくると、外国人労働者を国内に流入させるため、世界で最も勤勉な民族と言われる日本人の労働時間を減らし、人手不足を誘発しているようにも思えます。
なお、共同通信社の独自取材(令和6年11月8日)によれば、
厚生労働省は「106万円の壁」を撤廃する方向で最終調整に入ったとのこと。
壁を撤廃というと、一見、良さそうにも見えます。
しかし、国民民主党が公約に掲げている内容とは全く異なり、国民負担は増加します。
その内容は、パート社員の「厚生年金保険」加入要件のうち、次の要件を撤廃するというもの。
- 年収106万以上(賃金月額 88,000円以上)
- 特定適用事業所に勤務(加入要件を満たす従業員50人超)
もしそうなれば、週の労働時間が20時間以上働いているパート社員は、年収を問わず「厚生年金保険」に加入することになります。
ちなみに、これまで「厚生年金保険」の加入要件は「健康保険」と同じです。
そのため「健康保険」も被扶養者を外れ、必然的に加入することになるかと思われます。
また「雇用保険」の現在の加入要件とも同じです。
「年収の壁」に関する詳細は、YMT社会保険労務士事務所のホームページをご確認下さい。